『大鏡』第三 伊尹伝より
行成ネタその四 独楽のこと・扇のこと
行成さまは少々不得手の事に関しても、思慮深く工夫をなさって、そつなくこなしてしまう御性分の方です。
後一条天皇がまだご幼少の頃、主上は人々に
「いろんなおもちゃを持ってきておくれ」
そう仰せになりました。
皆は様々に金や銀などで細工を凝らし、なんとかして主上のお気に召す物をと思って意匠を凝らした物を作り、それぞれ持って参りました。
そんな中で、行成さまは独楽に村濃の紐を添えて主上に差し上げました。
主上は興味をお持ちになりました。
「変な形の物だね。これは何?」
「これはですね…」
行成さまは主上に独楽の説明をして
「回してごらんなさいませ、面白いものでございますよ」
そう申し上げたので、主上は紫宸殿にお出ましになり独楽をお回しなさいます。
すると独楽は広い御殿の中をくるくるくると回り歩いていきました。
主上はとても面白がられて、この独楽でばかりいつもお遊びになられたので、他のおもちゃはお蔵入りになってしまったそうです。
また、殿上人がいろいろな扇を作って主上、この時は一条天皇、に差し上げるということがありました。
他の方々は扇の骨に蒔絵をほどこしたり、あるいは金・銀・沈香木・紫檀の扇の骨に象嵌細工や彫刻をしたり、えもいわれぬほど見事な紙に、人がそうそう知らないような和歌や漢詩、また日本全国六十余国の歌枕の名所の景色なんかを描いたりした扇を主上に差し上げました。
ところが例によって行成さまは、骨は漆だけを綺麗に塗り黄色い唐紙の下絵のほのかに感じよく描かれただけの扇に、表側には楽府の文句を端麗に楷書で、裏側は筆勢に心を込めて草書で見事に書いて主上に差し上げました。
主上は行成さまの扇の表裏を何度も何度も御覧になり、御手箱にお入れになって大切な宝物とお思いになり、他の扇はただ面白いと御覧になっただけでした。
独楽も扇も主上がとても感激なされたわけで、これに勝る名誉が他にあるでしょうか。
~~~~~~〈以下解説?〉~~~~~~
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