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  • 6:かさねの色目6
    平成21年3月24日
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カテゴリー「『枕草子』口語訳」の6件の記事

2009年4月27日 (月)

『枕草子』について

七段 上に候ふ御猫は
四十七段 職の御曹司の西面の立蔀のもとにて
百二十七段 二月、宮の司に
百三十段 頭弁の職にまゐりたまひて
百三十一段 五月ばかり、月もなういと暗きに

藤原行成の登場する章段は全部UPしましたので、
『枕草子』の訳はひとまず終了です。

今更ながらの簡単『枕草子』説明(・◇・)b

作者:清原元輔女(ムスメ)の清少納言。

成立:跋文に従うなら996年頃に源経房により初稿版『枕草子』が流布。
   その後大幅に書き加えられて寛弘末(~1012)頃までに
   成立したと考えられている。

内容:約300の章段から成り立っており、
   類聚的章段・随筆的章段・回想(日記)的章段の
   三つに分類される。(曖昧なものもあり)

伝本:…メンドクサイ(おいぃ)
   四系統あります。詳細はググって下さい><;
   
拙訳は新潮日本古典集成『枕草子』と新編日本古典文学全集『枕草子』を主に、
日本古典文学全集『枕草子』(旧全集・表紙が赤)も少し参考にしています。

段数は新編全集に拠ってます。
お手持ちの枕草子と「章段の数違うんですけど?」って突っ込みは
無しでお願いいたします<(_ _)>

『枕草子』七段

上に候ふ御猫は

 主上のおそばにいる猫は五位に叙されていて、「命婦のおとど」って呼ばれているの。
とても可愛い子で、大切にされています。
その猫が縁側に出て寝っ転がっているので、世話係の馬の命婦って女房が
「まぁ、お行儀の悪い。中にお入りなさい」
と呼ぶのだけれど、
猫は日が射し込んでポカポカしている所にごろ~んと横になって動こうとしません。
馬の命婦は驚ろかせてやろうと思って
「翁まろ、どこなの?命婦のおとどに噛みついておやり」
などと言ったのです。
本気にしたおバカさんの翁まろ(犬)は、本当に猫に襲いかかったので、
猫は飛び上がると怯えうろたえて、御簾の中へ走り込みました。
ちょうど主上が朝餉の間にお出ましになっていた時で、
この様子を御覧になってビックリなさいます。
主上は猫をご自分の懐に避難させると、殿上の男たちをお呼びになりました。
蔵人の忠隆が参上します。
「この翁まろを打ちすえて、犬島へ流してしまえ!早く!」
主上がそう仰せになるので、
男たちは寄ってたかって翁まろを追い立て大騒ぎとなったの。
主上は馬の命婦もお責めになります。
「世話係はかえる。彼女では心配だ」
怒っておいでなので、馬の命婦は畏れ入って御前にすら出てきません。
犬は狩り立てられて、滝口の武士たちに追放されてしまいました。
「あらあら、今までは得意になって御所中を歩き回っていたのに。三月三日には頭弁の藤原行成さまが柳のかづらを頭にのせて、桃の花を挿頭にして、桜を腰に挿したりして飾り立てて歩かせなさっていたのにね。あの頃はこんな目にあおうとは思っていなかったでしょうに……」
などなど、女房たちは気の毒がっています。
「中宮さまがお食事の時は、必ず御前にいたのに、いないのはなんだか淋しいわね」
そんな事を言い合ったりして、三・四日ほどたった昼頃のこと。
犬がひどく鳴いているようなので、
一体どこの犬が、こうも長い間鳴き騒ぐのかしら?と思っていると、
他の犬たちが様子を見に走っていくの。
御厠人の下女が走ってきて
「あぁ、なんてことでしょう。犬を蔵人の方が二人がかりで打ちすえていらっしゃる。あれでは死んでしまいます。犬を流刑なさったのですが、帰ってきてしまったとの事で、こらしめておいでです」
可愛そうに……。あの翁まろなの。
「忠隆殿、実房殿などが打ちすえています」
そう言うので、止めに人をやるうちに、ようやく鳴き声がやみました。
「死んだので外に引きずって行って捨ててしまいましたよ」
などと言うので、不憫に思っていると、
夕方に、たいそう腫れあがった汚らしげな犬で、辛そうなのが、
ぶるぶる震えながら歩いています。
「翁まろなの?こんな犬がここにいるわけないものね」
「翁まろ」
呼びかけても、応えない。
「翁まろだわ」
「違うわよ」
女房たちが口々に言い合うので、中宮さまは
「右近なら見分けがつくでしょう。呼びなさい」
という事で、右近内侍が参上しました。
「この犬は翁まろかしら?」
そう仰って犬をお見せなさる。
「似てはおりますが…これはまた、とても酷いありまさで……。それに、普段なら『翁まろなの?』と言っただけで喜んでやって来ますのに。呼んでも私の所へ寄りつきもしません。違うようにも思います。翁まろは打ち殺して捨ててしまった、と申しておりました。二人がかりで打ちすえていたのに生きているのでしょうか」
などと申し上げるので、中宮さまは可哀想に思っておいでのようです。
暗くなり、何か食べさせようとしたけれど、口を付けないので、
別の犬だという事で終わってしまいました。

 その翌朝、中宮さまは御髪をとかし、お手洗いの水などをお使いになっていて、
鏡を私に持たせなさって、御髪の様子などを御覧になっていると、
あの犬が柱もとにうずくまっているのが見えます。
「あぁ、昨日翁まろをたいそう打ちすえてしまって……。おそらく死んでしまったのでしょうけど、可哀想に。一体次は何に生まれ変わるのかしら。どんなにか辛い気持ちだったでしょう……」
そう呟いていると、このうずくまっている犬がぶるぶる震えて涙をポロポロこぼしたの。
驚いたことに翁まろだったのです。
「昨日は隠れてじっとしていたのね」
可哀想であると同時に、とても興味深いわ。
鏡を置いて
「おまえは翁まろなのかい?」
私がそう言うと、伏せてたいそう鳴きます。
中宮さまも驚きながらもお笑いになっています。
右近内侍を召して、事情をお話になり、みんなも笑いながら大騒ぎしていると、
主上もお聞きになって、こちらへお出ましなさいました。
「ほう、驚いたことに犬などもこのような心があるものなのですね」
主上も笑っておいでです。
主上付きの女房たちもこの事を聞きつけ集まってきて、
翁まろに声をかけるのにも、今度は立ち上がって寄ってきます。
「やはり顔が腫れ上がっているわ。手当をさせてやりたいわ」
そう私が言うと
「とうとう、あなたが翁まろ贔屓だってことを白状したわね」
などと言って女房たちが笑うの。
忠隆が聞きつけて、台盤所の方からやってきます。
「翁まろが戻ってきたというのは本当ですか?本当かどうか見たく存じます」
「まぁいやだ。決してそんな犬はいませんわ」
また翁まろを打つに違いないと思って、そう言いやらせると
「お隠しになっても、見かけることもあるかもしれません。そうそう隠し通せるものでもないでしょうよ」
忠隆もしつこく食い下がってきます。

 さて、その後、翁まろはお咎めを赦されて以前のようにすごしております。
やはり人から可哀想に思われて、震えながら鳴いて姿を見せた時の事は、比べものがないほど興味深くまた感動させられる出来事でしたよ。人間などは人から言葉をかけられて泣くこともありますが、まさか犬が…ねぇ…… 

 ~~~~~~〈以下解説〉~~~~~~

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2009年4月19日 (日)

『枕草子』百三十一段

五月ばかり、月もなういと暗きに


 五月ごろの月もなくとても暗い夜、男の方々が
「どなたか女房は詰めておいでですか?」
などと騒いでいるので、中宮さまが気に止めなさり
「出てみなさい、いつになく言い立てているのは誰なのです?」
そう仰せになるので、私は部屋の端まで出ました。
「一体誰ですか?ずいぶん騒々しく大声をお出しになる方は」
男の方は何も言わずに、御簾を持ち上げて、下からゴソゴソっと何かを差し入れてくの。
呉竹なんだわ。
思わず
「あら、『この君』だったのね」
そう口にすると、男の方たちは
「さぁさぁ、まずはこの事について殿上に戻って語り合おう」
などと言いながら、式部卿宮さまの御子息の源中将頼定さまや六位蔵人など、
そこにいた人たちは向こうへ行ってしまいました。
頭弁の行成さまはこの場にお残りになって
「なんだか連中、妙な具合で帰ってしまったみたいだな。あのね、実は清涼殿の御前の竹を折って歌でも詠もうとしていたのだけれど、どうせなら職の御曹司へ参って、中宮さまの女房たちを呼び出して詠まないか?ってことになって持って来たんだよ。なのに貴女に呉竹の名をいとも簡単に言われて退散しちゃったのは、ちょっと気の毒だね。貴女は一体誰の教えを受けて普通の人は知っていそうもない事を、そうもあっさり言うのかな?」
「竹の名だなんて知りませんでしたのに、失礼な女だとでも、皆様お思いになったのでしょう」
「…そうだね、貴女は知らないよね」

 事務的な用件なんかも一緒に座り込んで話し合っていますと、
「栽ゑてこの君と称す~♪」
と殿上人たちが藤原篤茂の詩を吟誦しながら、また集まってきました。
行成さまが
「殿上の間で皆で話し合って決めた目的も果たさずに、どうしてお帰りになってしまったのかと不思議に思っておりましたよ」
と言いますと、頼定さまは
「ああ言われては、どんな返事をしたらいいというのか?下手な対応ではかえってブザマだよ。殿上でもこの事でもちきりなんだ。主上もお聞きになって面白がっておいででした」
そう話して下さいます。
行成さまも一緒に藤原篤茂の詩を何度も何度も吟誦なさって実に風流な雰囲気でしたので、他の女房たちもそれぞれ端近に出てきて殿上人たちと夜通し語り合っています。
帰るときになっても、殿上人たちはまた同じ詩を声を合わせて吟誦して、
左衛門の陣に入ってしまうまでその声が聞こえたのよ。

 翌朝とても早い時間、
少納言の命婦という主上付きの女房が主上の御手紙を中宮さまに差し上げたときに、
昨日のことを中宮さまに申し上げたらしいの。
中宮さまは、局に下がっていた私をお召しになります。
「そんな事があったの?」
「存じません。何の事だか知らずにおりましたのを、行成の朝臣がうまくおっしゃったのではないでしょうか?」
「うまく言う、とはいっても…ねぇ」
中宮さまはそうおっしゃると、にっこりと微笑みなさいました。



 中宮さまは、お仕えする女房の誰の事であっても、
殿上人が褒めていましたよ、といった事をお聞きになると、
そう評判される女房のことを自分のことのようにお喜びなさるの。
本当に素晴らしい事ですわ。


  ~~~~~~〈以下解説〉~~~~~~

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2009年4月11日 (土)

『枕草子』百三十段

頭弁の職にまゐりたまひて

  頭弁藤原行成さまが職の御曹司へ参られたのでお話などをしていたら、
夜がすっかり更けてしまいましたわ。
「明日、主上の御物忌だから殿上に詰めなくてはいけないんだ。丑の刻を過ぎると日が変わって具合が悪いだろうから…」
行成さまはそう言うと参内なさってしまったの。

 翌朝、行成さまは蔵人所で使っている紙屋紙を重ねて手紙を贈ってきました。

.

   今日は心残りに思うことがたくさんあるような気がする。
   夜通しで、昔の事なども話したりして夜を明かそうと思っていたのに、
   鶏の声に急き立てられてさ

,

 などなどと、たくさんの事が書かれているその手紙の字の素晴らしさったら…
お返事に、
「夜遅くに鳴いたという鶏の声って、孟嘗君のアレでしょうか?」
って差し上げたら、折り返し
「孟嘗君の鶏は函谷関の門を開き、三千の食客がなんとか逃げおおせたって何かの本にあったけれど、僕が言っているのは逢坂の関のことだよ」
そんなご返事が返ってきたの。

,

   夜をこめて鶏のそら音ははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ

     しっかりした関守がいますからね。

,

こう書いて、差し上げたのよ。
そうしたら、またまた折り返し、

,

   逢坂は人越えやすき関なれば鶏鳴かぬにもあけて待つとか

,

そう書かれた手紙が返ってきました。
最初に来た手紙は、僧都の君が土下座までして持っていってしまったの。
二通目の手紙は中宮さまのところに。
ところで、「逢坂は……」の歌のほうは行成さまのあまりの詠みっぷりに呆気にとられちゃって返歌せずじまいになってしまったのよ。
ホント酷いわ。

,

「貴女のあの手紙はね、殿上人たちもみんな見てしまったのだよ」
行成さまがいらっしゃって、そうおっしゃるので
「行成さまって本当に私のことを思って下さるのね。今の一言でわかりましたわ。せっかくの出来のいい和歌も人々の間に広まらないのってつまらないですもの。でも逆にみっともない和歌が人目につくのって嫌なことですから、行成さまのあの和歌は一生懸命隠して絶対に人に見せたりしませんわ。こういう私と行成さまの心配りのほどをくらべたら、勝るとも劣らないでしょ?」
「ホント、貴女ってそんなふうに事の真意を見透かして言ったりする点なんて、さすがその辺の人たちとは違うよね。何も考えず見せびらかしたりして最低と、その辺の女性のように文句言われちゃうのかなって心配していたんだよ」
などとおっしゃって、行成さまは笑いなさる。
「まさかとんでもない。私はお礼をこそ申し上げたいくらいですのに」
「僕の手紙を隠してくれたってのは本当にとても嬉しいよ。もしあの歌が人目に触れでもしたら、どんなに恥ずかしく辛いことになっただろう。今後も貴女のその分別の良さを頼みにしてるからね」

,

 その後、経房の中将さまがおいでになって、
「頭弁が貴女の事をたいそう褒めていたという事を知ってるかい?先日、彼からもらった手紙に書いてあったのだよ。私が想っている人が誰かに褒められるのって本当に嬉しいね」
などと、生真面目な様子で言うんですもの、面白いわ。
「嬉しいことが二つ重なりましたわ。行成さまが私のことを褒めて下さった事もそうですし、さらに経房さまの想い人の中に私が入っていたんですもの」
「そんなことを珍しく今はじめて知ったみたいにして喜ぶんだね」
そう経房さまはおっしゃいました。

,

 ~~~~~~〈解説〉~~~~~~

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2009年4月 9日 (木)

『枕草子』百二十七段

二月、宮の司に

 二月、太政官の役所で定考とかいう事をするのだそうです。一体どんなことなのかしら?孔子の絵などを掛けたりするらしいのだけど。
聡明とかいって、主上や中宮さまにも、なんだか気持ちの悪いものを土器に盛りつけて差し上げるんです。

,

 頭弁藤原行成さまのもとから、主殿寮の役人が、絵巻物のようなものを白い紙に包んで、さらに見事に咲いている梅の花を添えて持って来たのよ。
絵なのかしら?と思って、急いで手にとって開けてみると、餅餤(へいだん)という餅菓子のようなものが二つ並べて包んであるのです。
添えてあった手紙は公式文書のようになっています。

,

   進上           (しんじょう)
   餅餤一包        (へいだんひとつつみ)
   仍例進上如件     (れいによってしんじょうくだんのごとし) 
   別当少納言殿      (べっとうしょうなごんどの)

       長保元年二月×日        美麻那成行

       この男は自分自身でこの手紙を持って参ろうと
       思ったのですが、明るい昼間は醜い容貌が恥ずかしい
       からと、参上せずにいるようです。

,

 実に見事な字で書いてあるのよ。
中宮さまのもとに参上して、ご覧に入れると
「本当に立派な筆跡だこと。それにしても、面白いことを書いていますね」
そう行成さまの字をお褒めになると、手紙は手元にお召し上げなさいました。
「こういった場合、返事はどうしたら良いのかしら?この、餅餤を持って来た者には何かねぎらいの物を渡すべきなのかしら?誰か知っている者がいたらいいのに……」
などとブツブツ言っていると、中宮さまが
「惟仲の声がしていたわ。呼んで聞いてごらんなさい?」
そうおっしゃってくださいました。
さっそく私は部屋の端まで出て
「左大弁さまに申し上げます」
人づてに呼ばせると、中宮さまのお召しだと思ったのか、惟仲さまはびしっと威儀を正しておいでになりました。
「ごめんなさい。私が用があってお呼びしたのです。ひょっとして、弁官や少納言などのもとにこういった物を持ってくる使いの者には、何かねぎらいの物を与えたりするのでしょうか?」
「いや、そういうことはしません。ただ受け取って食べるだけです。しかし、どうしてそのよう

な事をお尋ねになるのです?もしや太政官のどなたかから、贈られてきたのですか?」
「まさか……」
別に行成さまの事を言う必要もないので軽く流しておいて、返事は真っ赤な薄様の紙に書きました。

,

   自分で持ってこないしもべは、冷淡な奴ね、と思われてしまいますよ

,

 綺麗な紅梅の枝に結んで届けさせました。
するとすぐに、
「しもべが参りました、しもべが参りましたよ~」
そんな声がしたので、部屋の端に出ていくと、行成さま御自身がおいでになっています。
「ああいった贈り物には、適当に歌でも詠んで返事をなさるなかな?なんて思っていたのに、ビックリしたよ。実に見事に言ってのけたね。女の人で、ちょっとばかり歌に自身のある人なんかは、すぐに歌詠みぶるのにさ。貴女はそんなことしないから付き合いやすいよ。僕なんかに和歌を詠みかける人のほうが、かえって考えなしだろうよ」
「それじゃあ、まるで則光ですわ」

,

 二人で笑い話にして終わったこの事に関して、
「主上の御前に多くの人が伺候していた時にね、行成さまがお話なさったので、『餅餤に冷淡とはうまく返したものだ』と主上がおっしゃっていましたよ」
ってな事を後から人が私に話してくれたんだけど、ちょっと聞き苦しい自慢話かしらね。

 ~~~~~~〈以下解説〉~~~~~~

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2009年3月27日 (金)

『枕草子』四十七段

職の御曹司の西面の立蔀のもとにて


 職の御曹司の西側にある立蔀のそばで、頭弁藤原行成さまが立ったまま、どなたかとずいぶんと長く話をしていました。
私は気になったので御簾の近くまで出て
「そこにいるのはどなた?」
そう言うと、
「弁がいるのですよ」
と行成さまが答えたの。
「何をそんなに話し込んでいらっしゃるのかしら?お相手の方は、きっと大弁さまがおいでになったら、中弁の貴方なんてほっぽり出してしまうでしょうよ」
って私が言うと、行成さまはとてもお笑いになって、
「誰がそんな事まで貴女に吹き込んだのかなぁ。僕はね彼女に、そんなつれない事はしないでおくれよって言い聞かせていたんだよ」

 行成さまは特に目立ったり評判になるようにとワザと風流ぶった振る舞いをすることはなくありのままにしていらっしゃるのだけれど、他の女房達はそんな行成さまの表面だけを見て『大したことのない人ね』なんて思っているの。
でもね、私は彼の心の奥ゆかしさを知っているから、
「あの方は並々ならぬお方ですわ」
などと中宮さまに申し上げると、中宮さまもその点はきちんとご存じのようです。
行成さまったらいつも、
「『女は自分を愛する者のために化粧をする。男は己を理解する者のために死ぬ』って昔の人も言っただろ?」
といったふうに言って下さるの。
私の事を理解してくれているのよね。
「『遠江の浜柳』のような仲でいよう」
そう二人で約束しているんです。

 最近の若い女房達は平気で欠点などを歯に衣着せずに言うのよね。
行成さまのことも
「行成さまって近寄り難い方だわ。他の方のように和歌などを詠んで場を盛り上げようともなさらないんだから、つまらない人」
などと非難したりするの。
行成さまは、そういう事を耳にしても、やっぱり女房達に話しかけたりするようなことはなくて、
「僕はね、目が縦にくっついていようが、眉毛がゲジゲジだろうが、鼻がまがっていようが、ただ口元に愛敬があって、あごの下や首がすっきりときれいで、声の優しい人が好きになれそうだよ。とは言ってもあまりに酷いブスは嫌だけど…」
だなんていつも言うものだから、尚更あごの細い人や愛敬のあまりないような女房達は行成さまを目の敵にして、中宮さまにまで悪く申し上げたりしています。

 行成さまったら何か中宮さまに用事がある時でも、私が一番始めに彼を取り次いだからってことなのか、わざわざ私を捜し出し、私が局に下がっているときは呼び出したり御自分で局の方までやってきて用件を言うの。
私が実家に帰っていると、手紙を書いてよこしたり、わざわざ私の家にやってきて、
「今すぐ中宮さまのもとへ参上しないって言うのなら、誰か使いの者にでも『行成がこう申しております』って言ってもらうようにしてよ」
などとおっしゃるの。
「別に私じゃなくたって…中宮さまの所には他にも女房が詰めているでしょう?そちらの方に頼んだら?」
そう言って辞退しても、行成さまったら聞き入れてくださらないのよね。
「あのですねぇ、何事もあり合わせのもので用を足し、こだわりすぎず、その場その場に応じてやっていくのが良いって聞いているんですけれど?」
なんて忠告めいた事を言ってみたりするけれど、
「これが僕の性格だからね…性格なんてそうそう改まったりしないしさ」
とか言って開き直っているの。
「じゃぁ、『改むるに憚ることなかれ』って故事は一体何の事を言っているのかしらね?」
私が首をかしげてみせると、行成さまは笑いながら
「ねぇ、それよりも僕と貴女の仲が良いだなんて人に噂されてるじゃないか。まぁ実際こうやって親しく話をしているわけだから、別にもう恥ずかしがる事なんてないだろ?顔をさぁ、見せてくれないかな?」
ちゃっかり話をそらしてしまうんだから。
「でも、私ブスですわよ。以前『ブスは嫌い』っておっしゃってたでしょ?だから、お見せしません」
「…そうか、そんなに酷いなら貴女のことを嫌いになるかもな。だったら見せてくれなくていいよ」
行成さまはそう言うと何かの拍子で私の顔が見えそうになっても、扇や袖で顔を隠したりして、本当に見ようとなさらないの。
行成さまってホント、律儀って言うか真面目って言うか…

   ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 三月も末になればずいぶんと暖かくなってきて冬の直衣じゃ暑いのでしょうね、下襲は着ないで袍だけの姿だったりで殿上人の宿直姿もよく見かける、とある早朝のこと。
その朝は日が昇っても式部のおもとと一緒に小廂の間で寝ていたんだけど、奥の引き戸をお開けになって主上と中宮さまがお出ましになったのよ。
もうビックリしちゃって焦って起きるに起きられずあたふたしている私達を御覧になって、お二人はとってもお笑いになるの。
唐衣をとりあえず汗衫の上に引っ被って夜具の中に埋もれたようになっている私達の側までいらっしゃって、門を出たり入ったりしている者達の様子などを御覧になっています。
殿上人達が主上がこんな所にお出ましになっているって事に全く気付かず、私達の側まで来てあれこれ言うのを主上は面白がって、
「私達がここにいるということを悟らせないようにね」
などとおっしゃって笑っておられます。
そして、お立ちあそばされる時、
「さぁ、二人ともこちらへおいで」
主上はそうおっしゃって下さるけれど、
「きちんと化粧をして身なりを整えましてから…」
そう申し上げて、私達はその場にとどまりました。

 お二人が奥へ入ってしまわれた後、式部のおもとと、お二人の素晴らしい様子なんかを話して盛り上がっていたのだけど、南の引き戸の側の几帳が御簾を少し押し開けているのに気が付いたの。
そこに黒い人影のようなものが見えたのです。
きっと則隆が控えているのね、と思って気にも止めずにいたのよ。
式部のおもとと話を弾ませていると、たいそうご機嫌な笑顔がひょっこり御簾内に差し込まれたの。
「もう、則隆なんでしょ?」
そう言いながらそっちの方を見ると予想外の顔。
きゃぁきゃぁ大騒ぎをして几帳を引っ張って隠れるには隠れたけれど、なんとそこには行成さまが座っていたのよ。絶対に顔を見られないようにしようって思っていたのにくやしいわ。
一緒にいた式部のおもとは私の方を向いていて行成さまには背を向けていたから、顔は見られていません。
行成さまは立ち上がって御簾の中に入ってきます。
「もう、ばっちり!あますところなく見ちゃったからね」
「則隆だろうって思っていたので油断してしまいましたわ。でも、見たくないって言ってたじゃないですか。そんなにじっくり見ないで下さい」
「女の人の寝起きの顔はそうそう見られないって言うじゃない?ある人の局に行って覗き見して来たのだけれど、もう一人ぐらい見られないかなぁって。主上がいらっしゃった時からここにいたんだよ。、その様子だと全く気が付いていなかったみたいだね」
 その日から行成さまは私の所に来た時は、御簾越しではなく局の中に入ってくるようになったのでした。

   ~~~~~~〈以下解説〉~~~~~~

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